2023年12月14日更新
実は少ない!マンションの建て替え事例。その理由は?
目次
建て替え時期の目安は?中古マンションの寿命と建て替え
どんなに丈夫な建物であってもいずれ物理的な寿命を迎え、建て替えが必要となります。
中古マンションを購入する場合、マンションの寿命はあとどの程度残っているのか、建て替え時期はいつ頃だろうかと気になる方も多いでしょう。
立て替えのリスクの少ないマンションを選ぶためには、マンションの寿命と立て替え時期の目安について理解しておくことが重要となります。
そもそもマンションは使用素材の種類ごとにRC造、S造、SRC造と分類され、それぞれ強度や耐用年数が異なります。
その中でも最も多くのマンションがRC造(鉄筋コンクリート)のものであると言われています。
ではこのRC造のマンションの寿命はどの程度なのでしょうか。
国交省が2013年に発表した資料によると、このRC造のマンションの耐用年数は68年であるという調査結果が出ています。
他にもコンクリートについての調査は数多くされており、コンクリート造りの住宅の寿命は概ね100年以上であると言われています。
しかし、寿命を迎えるまでマンションの建て替えが行われないかと言えばそうではありません。
2014年に行われたある調査結果によると、立て替えの行われたマンションの平均築年数は33.4年であったと発表されました。
このように、マンションの寿命と立て替え時期は必ずしも一致するとは限らないのです。
マンションの建て替えはいつ、どの様に決まるのか?
マンションを建て替える場合、建て替えが決定するまでの協議の流れは次の4つの段階に分けて進んでいきます。
準備段階
準備段階ではまずマンションの建て替えが必要だと考える有志が集まり勉強会を行います。
この時、修繕や改修ではなく本当に建て替えを行う必要があるのかといった検討や、どのような問題点があるために建て替えが必要なのかといった建て替えに関する基礎的な検討が行われます。
この検討結果を理事会へ提起し、理事会でもマンションの建て替えによる再生の必要性が認められた場合には検討に関する議案として取りまとめられます。
そして理事会によって取りまとめられた議案は今度は集会の議案として提起されます。
集会では次の2点についての議決を得る必要があり、これらについて認められれば正式に管理組合として建て替えについての合意を得られたということになります。
- 検討組織の設置に関する事項
- 検討に要する資金の拠出に関する事項
検討段階
検討段階では検討組織が結成され、マンションの再生方法として修繕や改修、建て替えの方法のうち、どれが最も適しているかについて専門家も交えて検討していきます。
そして検討結果を理事会へ提出し、理事会から区分所有者の集会へ建て替え推進決議案として提起されます。
この決議は区分所有法によって定められた手続きではないため、必ず採択しなければならない決議であるというわけではありません。
しかし、この時点で区分所有者の意向をある程度固めておくと後の手続きがスムーズになるため、通常は決議を受けることが多いようです。
計画段階
計画段階では、まず計画組織が結成されます。
この計画組織が実際に建て替えを行うデベロッパーを選定しますが、デベロッパー選定に関しては住人の信頼を得られる業者でなければのちの揉め事に発展する可能性があるので注意が必要です。
デベロッパーが決定したら建て替え計画を検討していきます。
内容としては建て替えの基本的な計画や費用負担をどうするか、建て替えに賛同しない区分所有者への対応をどうしていくかといったものです。
この時、住人へ対してアンケートや説明会が行われ、建て替えに関する理解を求める活動も行われます。
そして機が熟したら区分所有者の集会へ、実際に建て替えを実施することに合意する旨の建て替え決議を提起します。
この建て替え決議に関しては区分所有法により組合員及び議決権の4/5以上の賛成により決議されます。
実施段階
実施段階ではマンションの建て替え組合が結成されます。
そして住人が建て替え後にどこに住むかといった権利変換計画を策定して認可を受けます。
以上のようにしてマンションの建て替えに関する決定がなされていきます。
もしマンションの建て替えが決定したら?負担しなければならない費用について
マンションの建て替え費用の目安
マンションを建て替える場合、その費用は専有面積によって大きく変わります。
ワンルームマンションであれば約1,000万円前後と考えられますが、ファミリータイプになると2,000万円を超えるケースもあります。
その他、仮住まいの賃貸料や引っ越し費用などを含めた、いわゆる諸費用として数百万円の準備も必要です。
マンションの建て替えが行われる場合、建物が新しく綺麗になったり機能的な面が追加されたり、住人が受けられる恩恵は大きいでしょう。
その一方で、居住中のマンションが立て替えられることによって負担しなければならない費用がいくつか発生します。
具体的にはどのような費用が発生するのかについて見ていきましょう。
建物の建築費用と解体費用
建物の建築費用と解体費用を住人が負担するかどうかについては、そのマンションが賃貸であるか分譲であるかによって異なります。
費用を負担するのはオーナーであるため、賃貸マンションである場合は住人に費用負担はありませんが、分譲である場合は区分所有者がその費用を負担する必要があるのです。
分譲マンションの場合、この費用は管理費や修繕積立金から拠出される場合もありますが、その場合には必要な手続きを行わなければなりません。
元々の用途としては管理費はマンションの管理業務に充てる費用であり、修繕積立金はその名の通り建物の修繕等に充てられます。
修繕積立金については余剰金がある場合は建て替えの際に清算して住人へ返還されますが、規約を変更して建て替え費用に充てることも可能です。
解体や建て替えにかかる費用はマンションの規模や立地条件によっても大きく異なるため、建て替えの話が出た際には負担金についてもよく確認しておきましょう。
引越しに掛かる費用
居住中のマンションを建て替える場合、解体工事の前に一旦退去して新しい住居に引っ越さなければなりません。
また、マンションが完成したら新しいマンションへ入居するために再度引っ越しする必要があります。
一時的な引っ越しであるとはいえ荷物を残したままにはできませんし、家族が多ければそれだけ荷物も多くなり負担が大きくなってしまいます。
仮住まいの家賃等
マンションの解体から完成までの仮住まいにかかる家賃が発生します。
また、入居する際に敷金や礼金を支払わなくてはならない場合もあるでしょう。
マンションの建て替えが困難な理由
分譲マンションの建て替えがほとんど行われていないのは、どのような理由があるのでしょうか?代表的な原因をご紹介します。
容積率既存不適格のマンション
建物を建てる際には、建築する時点での建築基準法や規制に沿った設計でなければなりません。
そのため、古いマンションの場合、改正された建築基準法や規制などで定められた容積率が、最初に建築した段階より引き下げられていると、新しい建物は元の建物より狭い面積になってしまいます。
つまり、一部屋ごとの面積が狭くなったり、部屋を増やして売却し、建て替え費用の負担を抑えたりすることができません。
もちろん、最初から容積率に余裕があり、建て替えても元の広さを維持できる場合もあります。
しかし、基本的に分譲マンションは利益を最大限得るために、建築段階で容積率の限界まで建物を建てるのが基本となっているため、土地に余剰があるという物件はほぼ存在しないと考えられます。
建て替え決議の同意を得ることが難しい
分譲マンションの建て替えを行う場合、建て替え費用は入居後の積立金などが充てられます。
しかし、建築にかかる費用は人件費などの経費の増加などにより、当初想定していた額より高くなっていることが多く、このような理由で積立金が不足した場合、居住者が追加で費用を支払わなければなりません。
また、建て替え工事の期間中はマンションに住むことができませんので、一時的に仮住まいを見つけ、引っ越す必要もあります。
金銭的、時間的に余裕のある居住者なら、追加費用の支払いや仮住まいの用意について同意を得ることができるかもしれません。
しかし、分譲マンションでは複数の世帯が入居しているため、全ての世帯に金銭的、時間的な余裕があるとは限らず、全ての世帯について条件等の合意が得られる可能性は低いのが実情です。
また、上の項目でも説明したとおり、規制の変更によって部屋が狭くなってしまうことについても同意を得なければなりませんので、スムーズに建て替えの同意が得られる可能性はさらに低くなるでしょう。
このことも、分譲マンションの建て替えが進まない要因と考えられます。
建て替えを難しくしている資金問題
上の項目で費用面の問題が建て替えを難しくしていると紹介しましたが、実際にマンションを建て替えるとどのような費用がかかるのでしょうか?
マンションの建て替えでは、既存マンションの解体費、新しいマンションの建築費の他に、土地の調査及び設計、建築計画の策定費用がかかります。
また、工事中の固定資産税などの税金も考えなければなりませんし、追加費用を個人的に借り入れる場合は、利息やローン契約手数料などの費用も考慮しなければなりません。
その他にも、仮住まいに関する費用も別途かかり、こちらは契約にともなう礼金及び手数料、引っ越しにかかる費用の他、毎月の家賃も必要です。
住民が負担する費用について
資金のうち、住民が全て負担するのは仮住まいに関する引っ越し費用や物件の契約費用、家賃などです。
合計費用は引っ越し先の距離や広さ、家賃などにもよりますが、マンション建築は年単位で時間がかかるため、安く見積もったとしても約200万円の費用負担が発生するでしょう。
また、もし積立金で建設費用が賄えなかった場合は、この部分についても住民が支払わなければなりません。
建て替えが成功している事例
分譲マンションの建て替えは難しいのが現状ですが、実際に建て替えに成功した事例についてもご紹介しておきます。
建て替えで今より戸数を増やせるマンション
容積率などに余裕があり、戸数を増やすことができる物件は建て替えに成功しやすい傾向があります。
これは、建て替えによって増えた部屋を新たに売り、建築費用の補填を行うことができるのが理由です。
等価交換方式のマンション
等価交換方式とは、マンション所有者が土地を出資し、デベロッパーが建物を建築、完成後居住者と事業者が出資比率に応じた割合で不動産を取得する方式です。
建て替え費用の一部をデベロッパーが出資するため、居住者の費用負担を抑えられるメリットがあります。
しかし、デベロッパーは上で説明しているように戸数増加などによって利益を出す必要があるため、容積率に余裕のある物件以外では用いられることはほとんどありません。
この方式は、マンションだけを建て直すのではなく、周辺の土地を購入して大きなマンションに作り替えたい場合などに用いられています。
人気のエリアにあるマンション
交通の便が良いなどの理由で人気が高いマンションも比較的立て替えが成功しやすい傾向があります。
これは、建て替えによって高額で売却できるため、建て替え費用を負担しても利益が得られる可能性が高いことが理由です。
マンションの建て替えがされない場合、どのようになるのか
前述の通り、分譲マンションの建て替えは現状ほとんど行われていません。しかし当然マンションも長い年月が経てば自然と老朽化が進んでしまいます。
ではマンションの建て替えが行われない場合、一体どのような対策をすれば良いのでしょうか。
一つ目は定期的に大規模修繕を行う方法です。
マンション全体を立て替えるのは確かに難しいのですが、定期的に修繕を繰り返せば建物の寿命を延ばすことができます。
恐らく分譲マンションのほとんどがこのようにして老朽化を防いでいるのではないでしょうか。
もう一つは区分所有権を解消し、敷地売却を行うという方法です。
こちらは、耐震性が不足している旨の認定を特定行政庁から受けたマンションにかぎって利用できる制度となっています。
敷地の売却はマンション敷地売却決議により実施されます。決議によって同意が得られれば、マンションの敷地を一括して買受人に売却することが可能です。
マンション敷地売却制度による事業は権利変換によるマンション建て替え事業などと違い、建物除去後の土地利用については自由となっています。
ただし買受人は代替住居の提供や斡旋の計画について都道府県知事等の認定を受けなければならないとされています。
そのため、敷地売却制度を利用した場合でも、マンションの住民が路頭に迷うようなことはないでしょう。
マンションの建て替えが決まったら
もしマンションの建て替えが決定した場合、住民はどのような行動を取れば良いのでしょうか。
マンションの建て替えに賛成して再入居するなら、工事が行われている期間中に一時的に引っ越しをしなければなりません。
もちろん引っ越し費用も住民の負担となります。賃貸の家賃についても補償されることはありません。
また再入居するまでの期間ですが、着工から竣工までの純粋な建築期間だけでいえば約1年ほどというケースが多いでしょう。
しかし15階建て以上のタワーマンションだと建築期間が2年近くまで掛かることもあります。
では次にマンションの建て替えに反対して立ち退くケースについてです。
マンションの建て替えを行う場合でも、建て替えに参加しない区分所有者の専有部分をその人の意思に反して勝手に壊すことはできません。
そのため、建て替えに参加しない区分所有者に対して、参加する区分所有者が区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すことを請求することができます。
これを売り渡し請求といいます。
こうして売り渡し請求権が行使されればマンション全体が建て替えに参加する人だけになり、ようやくマンションの取り壊しに掛かることができます。
決議により建て替えが決定されてしまうと、賛同しない限りは立ち退きをせざるを得ない状況になります。
分譲マンションの権利を時価で売り渡し、潔く次の住居探しを行うのが賢明でしょう。
マンションの建て替えが決まった場合に利用できる支援制度
マンションの建て替えに必要な費用は、安いものではありません。元々準備していればよいのですが、なかなかそういう訳にはいかないものです。
そのような方々のために、さまざまな支援制度があるのはご存知でしょうか。
ここでは、補助金による支援制度、融資による支援制度の他、さまざまな相談窓口についても説明します。
補助金による支援制度
国の補助金により、マンションの建て替え費用の一部を助成する制度があります。
例えば、マンションの共用部分などの整備について補助する「優良建築物等整備事業」などがあります。。
融資による支援制度
住宅金融公庫でも、マンションの建て替えに適用可能な融資を行っています。
例としては、「まちづくり融資」のうちの一つで、高齢者を対象とした「高齢者向け返済特例制度」というものがあります。これは、高齢者が建て替えしたマンションに居住するために借入ができる制度で、亡くなるまでの間は利息のみの支払いで済むようになります。
建て替えの不安やトラブルの相談は専門の窓口へ
マンションを建て替えするとなると、お金の面も含め、さまざまな不安を抱えることになります。また、マンションの管理組合で決まったことでも、住人とのトラブルになるかもしれません。
マンションの建て替えに関しては、地方公共団体の地方整備局、まちづくり住宅課などといった窓口で相談するとよいでしょう。
マンション再生協議会などの法人団体でも相談を受けつけているので、利用してみてください。
マンションの建て替えに賛同できないときは
住んでいるマンションの建て替えが決まっても、どうしても建て替え費用の捻出ができない方もいることでしょう。
マンションの建て替えに賛同できなければ、売却も検討してみましょう。売却が可能であれば、マンションのローン返済や次の住まいの入居費用にも充てることができます。
ただし、しっかりとマンションの価格相場を把握して、高く売却してくれる不動産会社を探すことが大切です。
建て替えのリスクが少ない中古マンションの選び方
マンションを建て替えることによって住人の居住環境は良くなりますが、建て替えには膨大な費用が必要となります。
建て替えリスクの少ないマンションの選ぶ場合は次の視点で検討してみましょう。
購入を考えた時点で、建て替えの検討や協議が始まっていないか
建て替えの協議が始まっているということは、それなりの築年数が経っていることが予想されます。
マンションの建て替えには多額の費用が必要となりますので、建て替えを行う場合は住人だけでなくデベロッパーにとっても相応のメリットがある場合が多いでしょう。
たとえば立地が良く、その土地に新しいマンションが建設されたらそこに住みたいと考える人が大勢いるかどうか等です。
マンションの建て替えの目安である築30年以上の物件である場合は特に、購入を考えた時点で建て替えの協議が始まっていないかどうかについて確認しましょう。
建物の管理が行き届いているか
マンションの平均寿命は30数年であると言われていますが、これはマンションの構造や管理方法によって差があります。
建物の管理が行き届いており、建物の劣化が少ないマンションの寿命は平均を上回る場合が多いでしょう。
マンションの建て替えには多額の費用がかかりますし、通常はマンション再生の方法としては建て替えよりも修繕や改修が優先されます。
きちんと管理されているマンションの寿命は他のマンションに比べて長く、建て替えのリスクは低いと言えるでしょう。
長期にわたってのメンテナンス等の計画があるか
マンションのメンテナンス計画を確認することも重要です。
長期にわたってメンテナンス等の計画がある場合、建て替えを行わずに修繕や改修を行って長期間マンションを利用していこうという住人の意図が読み取れます。
突発的な災害などによる被害を受けない限りは、少なくともメンテナンス計画に定められている期間中は建て替えは行われないものと考えて良いでしょう。
容積率緩和による建て替え
これはごく稀なケースですが、建て替え費用の負担無しで新しいマンションに引っ越しできる場合があります。
実際に東京都では、過去に老朽化したマンションの建て替えを促進するために容積率を緩和したという事例がありました。
容積率が緩和されることによってどのようなことが起こるかと言うと、建て替え後のマンションの部屋数を増やすことが可能となります。
するとデベロッパーは建て替えによる利益を得ることができるようになるため、マンションの建て替えに積極的になります。
古いマンションの住人は土地を提供して建て替えを認める代わりに、新しいマンションへ費用を掛けずに引っ越しできるといった事例がありました。
ただし容積率が緩和された地域で建て替えが行われるからと言って、必ずしも無料で新しいマンションを取得できるわけではありませんので注意しましょう。
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